〜小説〜
ダイブ
第七章 搭
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僕らは夕食のときにタチカワさんにさっきであったプレイヤーのことを抗議した。
しかしタチカワさんは「注意しておくよ」というだけで特に措置をとってくれることはなかった。
結局、僕らは憂鬱な気分のまま自分たちの部屋に戻ることになった。
起きていると奴等の事を思い出してイライラしてしまうためすぐに寝ることにした。
目が覚めたとき僕は最悪の気分だった。
昨日のことが何度も夢の中に出てきたからだ。
今にも自分が殺されそうになるあの感覚は忘れようにも忘れられなかった。
最近、自分が現実世界にいるのか、ゲームの中にいるのか、夢の中にいるのかよくわからなる時間が増えてきたように思える。
今日で3日目か・・・
僕はリビングへ向かった。
リビングではタチカワさんが1人コーヒーを飲んでいた。
二人はまだ起きていないみたいだった。
僕が降りてきたことに気がつくとタチカワさんが僕の分のコーヒーも入れてくれた。
「昨日は大変だったみたいだね。あの後あのプレイヤー達の担当者に連絡して注意してもらったから。他のプレイヤーからも抗議が来ていたらしく
て、今後同じような行動を起こしたらあの二人には仕事から外れてもらうことになるから大人しくなるはずだよ。」
僕はそれを聞いて安心した。
うまいコーヒーを飲むことで気力が回復していくことがわかった。
しばらくしてサトルとミサもリビングに降りてきたので朝食をとることにした。
朝食の後、いつもどおりシャワーを浴び、僕らはゲームを始めることにした。
僕らは塔のある町の女神像の前にいた。
僕らがこれから何をしようか考えているとき、不意に後ろから声をかけられた。
「おまえさん方は冒険者かえ?」
そこに立っていたのは小汚い格好のじいさんだった。
なんだいきなりこいつは?
「頼みたいことがあるのじゃが…」
じいさんが近づいてきた。
「頼みってことは、おそらくクエストか何かだろ?」
「クエストぉ?」
「クエストてどんなかんじなの?一応ヘルプ見たけどイマイチ感覚がつかめなかったんだぁ。サトルて結構ゲームとかやってるでしょ?」
「う〜ん。つまりなんかお願いされてそれをかなえてあげるとご褒美としてアイテムとか経験値もらえたりするやつ。
だけどこのゲームじゃ経験値とかないからアイテムもらえるんだろーけど・・・
こんな汚いじいさんから良いものはもらえ・・・ないだろ?」
確かに汚くて、少なくとも高価なアイテムをくれるようなキャラクターには見えなかった。
それにしてもこのおじいさん、ジーッと僕の目を見ている!
気持ち悪い・・・。
っというかまばたきしないで常に僕の動きを目で追ってくる!
それになんか顔を異様に近づけてくるんですけど・・・
「うん…僕は断っていいと思うけど。気持ち悪いし…」
「つーことで俺たち冒険者じゃないからどっかにい…」
サトルがそう言い終わる前にミサが割り込んできた。
「ちょっとー困ってるんだから助けてあげようよ!」
「困ってるって言ってもプログラムだぜ?」
するとミサの目が少し釣りあがった。
「そんなの関係ないでしょ!
それに別にやることもないんだし、もらえるものは貰った方がいいでしょ!」
こういう言い争いは女には勝てないなと僕はしみじみ思った。
僕らは結局、ほかに目的もなかったのでミサの言い分に従うことにした。
「おじいさん。僕たち冒険者ですけどどうしたんですか?」
「この町の中心に建っている塔はご存じかね?」
ご存じもなにも目の前に建ってるんですが・・・
「この塔の最上階には聖なる力をもつ石がまつられておる。
その石のおかげで今までこの町は魔物にも襲われずに平和な日々を送ってこれたのじゃ。
それが数ヶ月前から塔の石の様子がおかしくなり塔の中には魔物まで住み着くようになってしまったのじゃ。」
うわー・・・ベタだ・・・。
ゲームじゃよくある話だよ・・・
「石の様子を見に行った村の若者は誰一人帰ってこなかった。
ワシの息子もその一人じゃ・・・
息子には2人の子供がいて幸せな生活を送っていたのに。
孫は今でも息子の帰りを心待ちにしておる。
ワシに「お父さんいつかえってくるの?」と毎日聞いてくるのじゃ!
頼む!
塔に登って息子の安否を確かめてきてくれ!」
たしかにリアルに表現されているおじいさんで、表情や声にも感情がこもっているから心にグッと来るものがある!
だがそれを考慮してもベタすぎる!
それになんか色々めんどくせぇ・・・
「おじいちゃん・・・つらいよね・・・」
「息子さんは絶対みつけてくるから!
じいさん少し待っててくれ!」
え!?
ミサは涙を流している!
サトルは拳を握りしめ塔をにらんでる!
おいAマジですか?
めちゃくちゃ感情移入しちゃってるんだけど…
しかもクエスト勝手に承諾しちゃってるし…
「タクヤ!早く行こうぜ!」
僕らは塔を登ることとなった!
おGちゃんの息子を捜すために!