〜小説〜
ダイブ
第六章 オンライン
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「さて・・・どうしよっか?」
僕が毎回恒例のセリフを言うと、すぐにミサが提案してきた。
「今回は午前中と違う方向にある少し遠い町のほうに行こうよ。」
「どーせ今からじゃどこにも行けないからそれでいいんじゃない?」
サトルも賛成のようだ。
っと言うかここ2時間あまり勉強ばかりやっていたので少し体を動かしたいというのが本心のようだ。
今回向かう方角は森とは違い、背の低い草しか生えていない草原で、非常に見渡しが良かった。
まだ形を保ってある遺跡後のような建物がいくつか見えた。
建物にさえ近づかなければ不意打ちはまずなく、スキル心眼がなくとも遠くからモンスターの姿を確認することが出来た。
やはりモンスターはゴブリンがメインで、たまに2倍ほど体の大きなボスゴブリンや、オークもいたがなんとか倒せないレベルではなかった。
それなりに苦戦は強いられたが、僕らは少しずつ次の町へ進んでいった。
ドォォォン!!!
進んでいく最中、爆発音と共に大きな火柱があがるのが見えた。
僕らのいる場所から200メートルほど離れた場所だった。
ちょうど遺跡のような建築物が間にあり爆発した場所は見ることが出来なかった。
「もしかして他のプレイヤーとかかな?」
僕は耳を澄ましてみたがそこらじゅうでモンスターがうなり声をあげているため、人の声は聞こえなかった。
「見に行って見る?」
ミサが目を光らせながら聞いてきた。
「まぁもし敵と戦っていたら助けてあげればいいし、情報交換も出来るし行って見ようか!」
サトルも行くことに賛成した。
僕らは火柱があがった場所に向かうことにした。
僕らが向かう途中にも爆発音は頻繁に聞こえた。
建物まで残り約30メートルの距離になった時、叫び声が聞こえた。
「助けてくれ!!!」
「ヤバイ!急ごう!!」
僕らは急いで遺跡の向こう側へ向かった。
ん・・・?
青い矢印が4つ?
そこには4人のプレイヤーがいた。
地面は爆発による穴がいくつも開いていた。
プレイヤーの1人は後姿で顔は見えないが、戦士風の装備をしている若い男が地面に腰を落としている。
その男の前に、魔術師風の装備をした若い男が2人、威圧するように見下していた。
魔術師風の男達の後ろにもう一人いるがうつむいており顔はよく見えなかった。
腰を落としている男が震える声で叫んだ。
「俺達が何したって言うんだ!?頼むやめてくれ・・・」
「うるせぇよ!だまれ!」
「さっさと逃げ回れよ!
これはゲームなんだよゲーム!
てめぇが逃げ回らなけりゃ盛り上がんねぇんだよ!」
魔術師風の男達は戦士風の男の腹を蹴り始めた。
「うぁぁぁぁぁ・・・やめてくれぇぇぇぇぇ!」
こいつら・・・
他のプレイヤーを殺してやがる・・・
さっきの爆発はモンスターじゃなく、他のプレイヤーに向けたものだったのか・・・
僕はなにかが胸の奥からこみ上げてきた。
見ていて気分の良いものじゃない・・
僕が奴等に文句を言おうとしたとき、すぐ隣から怒鳴り声が響いた。
「ちょっと!あんた達なにやってんのよ!?」
ミサだった。
すると奴等はこっちを向いてニヤリと笑った。
「へぇー!女のプレイヤーじゃん。」
「ミサ!こっちに!」
すかさずサトルはミサを背中の後ろに隠し、左手で押さえつけた。
しかし、ミサは顔を乗り出し今にも襲い掛かりそうな剣幕だ。
「ねーねーそんな奴等と一緒にいないで俺らと一緒に遊ぼうぜ?」
魔術師風の男2人が近づいてきた。
「ふざけないで!この人殺し!」
ミサの発言でイラっときたのか、眉間にしわがよるのが分かった。
すぐさま僕は槍を装備した。
サトルはすでに杖を取り出しており、すぐに戦えるように構えていた。
「おいおい怖い顔するなよ。
これはゲームなんだよ?
プレイヤー殺したって女神像にワープするだけで本当に死んだりしないんだからさ!
こういう風になぁ!!」
男は左手を斜め後ろに向けた。
ドォォォォン!!!
手を向けた先で巨大な火柱が上がった。
「ぎゃぁぁあ!」
さっきいた戦士風の男が火柱に囲まれてのた打ち回っていた。
「はっはっはっーぁ!ぎゃーだって!ウケるんだけど!」
その姿を見て魔法を使った男が高笑いし始めた。
「なに勝手に殺してんだよ!俺の獲物だろうが。」
もう一人の男が魔法を放った男に言った。
しばらくして炎に包まれていた男の動きは止まった。
真っ黒になった体が光に包まれ消えていった。
「まぁまぁ・・・いいじゃん。新しいのも見つかったところだし。」
奴等の顔がゆっくりとこちらに向いた。
「ところでさー、こいつら邪魔じゃね?」
「たしかに・・・なんかあの目ムカつくな・・・」
こいつらとは明らかに僕とサトルを指しているものだった。
「とりあえず消しとく?」
そう言って二人は手のひらを僕らに向け笑みを浮かべた。
「お前ら二人はいらないわ!バイバイ!」
その時!
さっきまで奴等の後ろにいた戦士風の中年の男性が間に割って入ってきた。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて!」
「あぁ!?なんだてめぇ!」
「ゲームの邪魔すんじゃねぇよ!」
二人は明らかに不機嫌になり中年の男性に向かってにらみつけた。
「てめぇは俺達の盾として消さないでおいてやってるだけだからな?
勘違いして調子に乗ってるとてめぇも消すぞ!」
中年の男性は一瞬ビクっと体を震わせたが、体をどけはしなかった。
「まぁまぁ・・・でもこれ以上するとまた怒られますよ?お互いお給料なくなるのは嫌じゃないですか?」
すると魔術師風の男達は顔を曇らせ舌打ちをした。
「あーうぜぇうぜぇ!もういいよしらけちまった!行こうぜ」
しばらくして僕らに背中を見せ奥へ歩き始めた。
「よかったな!殺されずにすんで!」
「お前らゴブリンに殺される前にこのバイトやめたほうがいいんじゃねぇか?
雑魚がうろちょろしてるとウザいんだよ。カスが!」
二人は大きな声で笑い歩いていった。
その後を少し距離を置いて中年の男性がとぼとぼ歩いていった。
正直僕は限界に近かった。
腹が立っていてもたってもいられず手にした槍を遺跡後に向かって思いっきり投げつけた。
ミサにいたっては顔を真っ赤にしてうっすら涙を浮かべている。
奴等の姿が見えなくなった頃サトルはようやく装備を解除した。
「いやぁー殺されずに済んでよかったな!」
「あぁぁ!?」
僕とミサの声がハモった。
こいつは何を言っているんだ?
僕とミサは、奴等への怒りをサトルへぶつけた。
「あんた何言ってんの!?悔しくないの!?」
するとサトルはあせって弁解し始めた。
「いや!ごめん悔しくないってわけじゃないよ!ただ・・・」
「ただなんだって言うんだよ!?」
「いや・・・あいつらものすごい魔法を詠唱もなしに唱えていただろ?装備も俺達とは比べ物にならないほどいいもの着けてそうだったし。
第一に俺達が着く前に違うプレイヤーと戦闘してたのに傷1つ負ってなかっただろ?
あんな奴等と戦っても勝ち目は1%もなかったぜ?
明らかにプレイ2日目の俺達とは違ってた・・・冷静になれよ。」
冷静になれか・・・
たしかにサトルの言っていることは正しい。
だけど・・・
「でも私悔しいよ・・・」
ついにミサは座り込んで泣き始めてしまった。
その後僕らは一歩もそこを動くことなくログアウトした。