〜小説〜
ダイブ
第五章 過信
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「強い敵ほどスキル無効化してくる確率が高いため注意が必要・・・」
それはあまりにも唐突だった。
バキッ!
大きな音と共に右腕に痛みが走った。
痛みとは比較にならないほど右腕が折れ曲がり、腕からは大量の血が噴き出している。
「うわぁぁぁぁぁ!右手が・・・」
「おいおいおいおい!!
こんなところで出てくるレベルじゃないだろこれ!」
僕の右腕を折った犯人はすぐ横にいた。
大きさは僕の身長の2倍近くあり、手には大きなハンマーのようなものを持っていた。
人の形をしているが、獣独特のにおいを発している体はただれて腫れ上がり、一目で人間ではないことがわかる。
何よりも真っ赤に腫れ上がった4つの目と大きな牙が、人間という選択肢を除外している。
なぜ今まで気づけなかったんだ!
これがスキル無効化の能力を持った敵・・・
気配を感じることすら出来なかった。
僕の腕が折れた音で2人はすぐに気づいたが、ミサはあまりに急だったため、どうしたらいいのかわからずオロオロしていた。
僕はすぐさま槍を装備したが利き腕が使えないためにうまく持つことが出来なかった。
化け物は大きく振りかぶり僕に攻撃しようとしてきた。
くそっ!動けない・・・
「ぐぅぅぉおおおおっ!!!」
僕はとっさに目をつぶり、体を小さく固めた。
・・・
しかしいつまでたってもモンスターの攻撃は僕には届かなかった。
良く見ると、化け物の頭に何本もの氷の矢が突き刺さっていた。
サトルがいつの間にか魔法を唱えていた。
助かった・・・
「ミサ!タクヤを回復してくれ!」
「え?あ・・・わっ・・・わかった!」
ミサがすぐにさーやに回復するように命令した。
「さーや!回復してあげて!」
しかし、さーやは首をかしげてわけが分からないというポーズをとっている。
何でだ!?
さっきまでは回復してくれていたのに!!
「さーや!!タクヤを回復して!出来るんでしょ?」
ミサの声は焦りに満ちていた。
するとさーやはうなずき僕のそばにやってきた。
どうやらちゃんと相手を指名しなければ理解してくれないようだ。
さーやと右腕が光に包まれて徐々に痛みが引いていく。
いけるっ!
化け物の目がいくつかつぶれたようで、大きな叫び声をあげ手に持ったハンマーを振り回している。
化け物が大きくよろめいた隙を見て僕は突っ込んだ。
「グロー・ランス!」
キィィィン!
槍が化け物の体に突き刺さりあたり一面に光が放たれた。
ゴブリンの時とは違い腕には何かに刺さったような感触が残っていた。
次の瞬間、胸に痛みが走り2人の足物に転がるように飛ばされた。
確かにグローランスは化け物にダメージを与えた。
腹にはぽっかりと穴が開いており体全体が焼け爛れている。
しかし、頭に矢が突き刺さり、腹に穴を開けられてなお、奴は生きていた。
強すぎる・・・
化け物は少しずつ僕らのほうへ近づいてきた。
さっきの胸への一撃のせいなのかうまく呼吸が出来ない。
やられるっ!!!
だが、僕らの目の前にまで来たところで、うつぶせに倒れ動かなくなった。
数秒後、化け物は光に包まれて消えていった。
僕らは一斉にため息をついた。
「洒落になってないだろーアレは!」
サトルの言ったセリフは、僕もミサも言おうと思っていた。
「みんな・・・無事でよかった」
ミサはよほど怖かったのかまだ震えていた。
「とりあえず残り時間も少ないしもうここで休もうか。」
僕がそういった瞬間だった。
サトルの体が消えた!
右方向に吹っ飛ばされたといったほうが正確だった。
あの化け物は1体ではなかった。
サトルの体が光に包まれて消えていく・・・。
不意をつかれたため防御する暇も無く一撃でやられてしまった。
次は僕たちだ・・・
化け物が僕らにとどめを刺すため振りかぶった・・・
ブツッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あー・・・おつかれさまぁ。よく1匹倒せたね!あれセミボスだよ。」
タチカワさんの声・・・
ひどく懐かしく感じる。
現実世界に戻ってきたのか・・・
「なんというか・・・少し怖かったです。」
正直な気持ちだった。
この後僕らは、シャワーを浴び、昼食をとった後それぞれの部屋へ戻った。
次のプレイまで残り2時間近くあったのだが特にやることもなかったので、ベッドに横たわり空を眺めていた。
「タクヤ・・・タクヤ・・・おい!タクヤ!」
僕はすぐに体を起こし槍を装備した。
ん?
槍が出ない?
「なにやってんの?お前?」
そこにはゲームをするときのスーツを着たサトルとミサが笑いながら立っていた。
あぁ・・・寝ちゃったのか。
「今、グローランス撃とうとしただろ?」
サトルがふざけながら言った。
「間違えたんだよ!なに?もう時間?」
「シャワーはさっき浴びたからすぐ着替えていいってさ。
早く着替えろ。
タチカワさんが待ってるぞ。」
サトルとミサが部屋を出るのを確認した後、僕は急いでスーツに着替えた。
1階に降りるとタチカワさんが2人に何か話しているのが聞こえた。
僕も急いで向かった。
「お・・・きたね。一応次からオンライン接続するから二人に説明していたんだ。
オンライン接続も僕らが一通りチェックしたから問題ないと思うけど、もしなにか異常が起きたらすぐに別のフロアに移動してほしい。
バグを修正する場合、プレイヤーが近くにいると別なバグを引き起こしちゃう可能性があるからね。
後は今までどおり好きなようにプレイしてもらって結構だから。
それじゃあ行こうか。」
その後僕らはカプセルの中に入りゲームの世界に入った。
なんだかこの作業にも慣れてきたな・・・