〜小説〜
ダイブ
第四章 戦闘
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町から外にでてしばらくは、人影すら見ることが出来なかった。
そこは美しい草原で、人が歩いて出来たような道が奥へ続いており、隣の町らしきものをうっすら見ることが出来た。
草原には背の高い木や、壊れかけた遺跡のような建築物、空には何匹か鳥が飛んでいた。
道のところどころには旅人が休憩するために作ったような小屋のようなものが立っていた。
その光景は本当にリアルで、ゲームだということを忘れてしまう美しさがあった。
「次の町も意外と近いみたいだね。」
「眺めもいいし最高だな。」
2人ともリラックスしており他愛の無い会話で盛り上がりながら道を進んでいった。
ああ・・・こんな風景を見たのはいつ振りだろう。
おそらく10分程度だろうか。
特に何も起きず、自分たちを襲ってくる存在がいるというのを忘れかけていたとき、
奴等が現れた。
「ヴォォォー!!!」
大きな雄叫びをあげ、僕らが進んでいた道の両側から、それぞれ2匹ずつ計4匹現れた。
RPGや、ファンタジー系の映画で良く出てくるゴブリンのようだ。
雑魚の代名詞であるゴブリンだが、実際に目の当たりにすると非常に恐ろしく感じられる。
背丈は120センチ程度だが、手には粗く削られた棒のようなものを持ち、ボロボロの服を着ていた。
目は赤くギラギラ光らせており、ところどころかけているむき出しの牙が見えた。
どんなに雑魚だといっても、僕らも初の戦闘だ。
システムも完全に理解していない状態で挟み撃ちにあうことが、非常に危険なことは誰が見ても明らかだった。
僕はミサの方に目をやった。
ミサはひたすらオロオロしていた。
パニック状態になっている。
僕がサトルの方を見ようとしたとき、右側にいたゴブリンがわずかに近づいてくるのが分かった。
「どうする・・・サトル?」
僕はサトルに話しかけたが返事はなかった。
「おい!!さすがにやばいぞ!?」
僕は焦りから少し大きな声でサトルに呼びかけた。
「お前なにやってんだ!?タクヤ、早く逃げろ!」
声は僕のはるか後方から聞こえた。
なんとサトルとミサはすでに10数メートル後ろに逃げていた!?
おいてかれた!?!?
僕はすぐに数10メートル来た道に全力で走った。
僕が走り出すと同時にゴブリンも走り出した。
やつらは最短ルートを通って僕らに迫ってきた。
しかし・・・これならやつらは正面からしか襲ってこれない。
サトルが杖を取り出すの見て僕は今丸腰だということに気がついた。
僕は槍を取り出した。
「タクヤ!そこで足止めしてくれ!」
「イヤイヤイヤイヤッ!ムリムリムリムリッ!!」
「10秒でいいから耐えてくれ!」
4対1で・・・10秒ならいけるか・・・?
やるしかないのか・・・
僕は槍を前に突き出し、やつらを迎え撃つことにした。
攻撃には通常攻撃と特殊技があった。
武器屋では武器の攻撃力と、武器に設定してある特殊技の個数と名前しか教えてもらえなかった。
武器に設定してある技がどのような技かは、実際に使って見なければわからない。
技には使用回数は限られているため、あまり乱用はできない。
しかし、本当にピンチになってから技を使って、それが役に立たないものだったなんてことが起きるほうが最悪だ。
僕は、早めに技の情報を得たほうがいいと思った。
技は登録されている名前を叫ぶことで発動する。
僕は、槍に登録されていた技の名前を叫んだ。
「グロー・ランスッ!!」
すると手に持っていた槍が赤く輝き始めた。
不思議と僕自身は熱く感じないのだが、槍の周りの草が燃え始めた。
このときには槍は白く輝き始め、さらに輝きは増した。
槍の周りがゆがんで見えることから、ものすごい熱量が発生していることがわかった。
その間にもゴブリンはこっちに向かって走っており、先頭のゴブリンは2メートルほど先にまで迫っていた。
槍の射程距離に入ると、僕はすぐさま先頭を走ってきたゴブリンに向けて槍を突き刺した。
キィィィィン!
金属音と共に、前方に向かって、ものすごい光が放たれた。
前方の景色が真っ白になるほどの光で、一瞬すべてが消え去ってしまったのではないかという錯覚すら覚えた。
目の前にいるゴブリンだけはうっすら見ることが出来たのだが、槍がゴブリンの体に触れた瞬間、ゴブリンが消し炭になりもろく崩れ去った。
僕の手にはなんの抵抗も感じなかった。
ゴブリンが槍に触れた一瞬で燃え尽きたためだ。
槍は輝きを失ったが、120センチもありそうなゴブリンを一瞬で消してしまった。