〜小説〜

ダイブ

第二章 アルバイト

2 - 1


昨日大学まで走ったせいか軽い筋肉痛だった。


いつもどおりシャワーを浴びた後、簡単に朝食を取り家を出た。




駅に着いたのは約束の時間の
10分前だった。


2
人はまだ待ち合わせ場所には見当たらず、タバコを吸って待っていることにした。


 


2
3分後、サトルとミサが現れた。


サトルは小さなショルダーバッグだけ持っており、大きなキャリーバッグを持ってきたミサと、とても対照的で面白かった。


 


3
人そろったので昨日のうちにプリントアウトした研究所までの地図を頼りに歩き始めた。

初めのうちは「どんな仕事をするのだろう?」などと、他愛の無い会話をしつつ歩いていたが、思っていた以上に距離がありキャリーバッグも持たされていたサトルは、到着したときにはぐったりとしていた。


 


到着した場所は意外にも住宅街で、確かに軒先に「FNH株式会社」と書かれた表札があるがただの一軒家にしか見えなかった。


時間は
13時少し前だったが時間を潰せるような店が近くになかったため、呼び鈴を鳴らすことにした。


 


しばらくすると
40代前半だと思われる無精ひげの生やした眼鏡の男性が現れた。


 


「すみません。昨日アルバイトのことで電話した日野ですけど・・・」


「あー・・・いらっしゃい。とりあえず中に入って!」


 


僕たちは言われたとおり研究所の中に入った。


研究所とは名ばかりの普通の住宅のようで、玄関から入ってすぐ右手に台所、左手に洗面所、奥には大きな扉と
2階にあがる階段があった。


 


「あー・・・荷物は二階の部屋に置いてきて。
1って書かれた扉は僕の部屋で残りが君たちの部屋になるから。それぞれ置いたらリビングに来てね」


 


2階には4つの部屋があり1〜4と書かれたパネルが扉にかかっていた。


2
4の部屋が3つ並んで、反対側に1と書かれた扉があった。


部屋の内装は全て同じでベッドとテーブル、テレビが置かれており安いビジネスホテルのような感覚だった。


適当に部屋割りを決め、荷物をおいてリビングに向かった。


 


リビングではさっきいた男性が
4人分のコーヒーを作って待っていた。


3
人が降りてきたことに気づくと手招きし、コーヒーを勧めてきた。


部屋の中はコーヒーの心地よい香りに包まれていた。

僕は豆の種類などはあまり詳しくないが、いろいろな場所でよくコーヒーを好んで飲む。

正直な話、このコーヒーは今まで飲んできた1,2を争うほど、うまかった・・・



「あー・・・自己紹介がまだだったね。僕の名前は立川一(タチカワ ハジメ)。ここの研究所の責任者をやっている。」


タチカワさんの自己紹介で僕は現実に引き戻された。

タチカワさんの話では、この場所はなんらかの研究所らしいが、この建物には他に人の住んでいる痕跡や気配は感じられなかった。


もしかして一人で研究しているとかなのだろうか・・・。


 


3
人とも辺りを見回しながら聞いていたが、タチカワさんは僕らにかまわず説明を続けた。


「えーっと・・・タクヤ君、サトル君、ミサさんでいいのかな?

君たちにはうちで開発したオンラインで行うバーチャルリアリティーゲームのモニターをしてもらうんだ。


最終的には全国で集められたモニターの人たちと一緒にゲームをしてもらう予定なんだけど・・・

オンラインゲームやったことあるかな?」



僕とサトルは中毒とまではいかないが、少し前までオンラインゲームにはまっていたことがある。

一時期ミサに、一緒にオンラインゲームで遊ぼうと誘ったことはあったが、もともとゲームなどやらないタイプらしく、初めて数分で飽きてやらなくなった。


ゲームの経験がないとまずいのかと少し心配になったが、タチカワさんにそこまで問題ないと言われた。

その後、応募の時にパソコンを使って受けさせられたような質問をいくつかされた。

コーヒーがすっかりさめた頃、タチカワさんの質問攻めが終わった。


「えーっと・・・僕からの質問は終わりだ。

三人とも特に問題はないね。

そっちはなにか質問とかある?」



 

何を質問すれば良いか困っていた時、サトルがこの研究所にきてから僕もずっと疑問に思っていたことを聞いてくれた。


 


「あのー?研究員はタチカワさんだけなんですか?」


 


するとタチカワさんは冷めたコーヒーを飲みながら答えてくれた。


「んー・・・今はね。

ここと同じようなところがいくつかあってね。


それぞれの担当する場所で君たちと同じようにモニターしてくれる人を集めてテストするんだ。」


 


ネットを通して遠く離れた人とゲームをするためにあえて
1つの場所に集めなかったようだ。


確かにさっきオンラインゲームと言っていたな。


 


しかしリビングや
2階の部屋には、ゲームはおろかパソコンの姿すら見当たらなかった。


そこで僕は思い切って質問することにした。


「僕たちは具体的になにをすればいいんですか?」


 


するとタチカワさんは軽く眉間にしわを寄せて答えてくれた。


「んー・・・簡単にいえばゲームをしてもらうんだけど、詳しく答えるとちょっと長くなっちゃうから後で実際にプレイしてもらいながら教えるよ。


他に何か質問が無ければ、書類を書いて貰いたいんだけどいいかな?」

結局、肝心なことがわからないため、ほかに質問の仕様がなかった。


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