〜小説〜
ダイブ
第一章 はじまり
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大学に着いたときにはすでに講義が始まっていた。
幸いにも、出席はまだとられていなかったが、大学まで走るはめになってしまったため服は汗でじっとりしていて気持ちが悪く、狭い部屋に学生が集まっているため空気も悪かった。
なれない運動と熱気で気分が悪くなってきた。
僕は出席と提出課題をノートに写すなり、教官に見つからぬよう忍び足で喫煙所に向かった。
僕は今朝見たアルバイトのことで頭がいっぱいだった。
喫煙所につくなりタバコに火をつけ携帯に転送しておいたメールを見た。
旅行資金どころか生活費すらなくなりかけていたため、1週間で20万は正直な話、願っても無いチャンスだ。
もともと多少危ない仕事でもいいと考えていたし、他の仕事と比べゲームのモニターというリスクが少なそうな仕事に少なからず興味はある・・・。
ましてや一週間で20万もの大金が手に入ると考えれば、今の僕にこれ以上のうまい話はないと思った。
しかしあまりにもうますぎる話が逆に僕の心にブレーキをかけていたのも事実だった。
普通、ゲームのモニターなど、普通はゲーム会社の社員や、一般の人が先行プレイできる代わりに無料で行うんじゃなかったかな・・・
なぜ相場より高い金を払ってまでモニターを募集しているのだろう・・・
「よー不良!さぼりかぁー?」
後ろからの呼びかけが僕に向けられていることに気がついた。
僕は聞きなれた声のほうへ振り向いた。
笑いながら近づいてくる二人は金井悟(カネイ サトル)と中野美沙(ナカノ ミサ)だった。
サトルは同じ大学で確か・・・化学を専攻している。
歳は同じ20歳で、高校からの知り合いだ。
「なんでも効率よくやることが大切だ」というポリシーを持っているのだが、成功直前で簡単なミスをすることが結構あるため、あまり説得力が無い。
しかし、普通では気がつかないようなことに気がついたり、奇抜なアイデアをよく出したりする。
専攻こそ違えどよく一緒に遊びに行く仲間だった。
ミサはサトルの彼女でサトルと同じ学科だ。
歳は僕らと同じ20歳で、年齢より若く見られることが多く、本人はそれをうれしく思っているようだ。
精神的にも若く、なんにでも前向きなのだが、少し向こう見ずなところがある。
行動力があり優柔不断なサトルを引っ張っていくイメージがある。
サトルとは大学の飲み会で仲が良くなり付き合い始めたそうだ。
以来常に行動を共にしている。
「夏休みの旅行の計画どうするよ?」
サトルは早々に痛いところをついてきた。
「まだバイト見つかってなくて予定たてられそうにない・・・ごめん!」
サトルは予想がついていたようで苦笑いを浮かべながら隣でタバコを吸い始めた。
「なんで?結構前から計画してたじゃん!」
一方でミサは明らかに不機嫌そうな態度が顔に出ている。
なんとか雰囲気を変えたいと思い、苦し紛れに携帯に表示した求人情報を2人に見せた。
「ちょっとやってみようかなーって思うバイトは見つけたんだけどさ。どうするか迷ってるんだよね。」
気休め程度だと思っていたが、予想外の反応が返ってきた。
「えーすごいねこれ!一週間で20万っ!?」
ミサはとても興味があるらしく、僕から携帯を奪い、いじりだした。
「でもこれ危いんじゃねーの?」
サトルはやはり警戒しているみたいだ。
ミサはこの呼びかけにはこたえず、僕の携帯をいじっている。
しばらくの間、サトルは止めようとしていたが、無理だと悟ったらしく煙草をふかし始めた。
「ねーこれ3人でやろうよ?3人で60万だったら旅行に行ってもおつり来るよ!!」
ミサは本気でこのアルバイトをやりたいといい始めた。
「やめとけって!なんかあったらどうするんだよ?」
「大丈夫だって!20万あったらこの前ほしいって言ってたパソコン買えるよ!!」
「まぁたしかにそうだけど・・・でも・・・」
しばらく話し込んでいたがいつものようにサトルが折れる形になった。
サトルは僕の隣に座り煙草を一吸いするとこっちを見た。
「タクヤもやろうぜ・・・責任取れよな。」
サトルには悪いことをしたな・・・
少し迷ったがお金は必要だったし、2人が一緒にやるなら大丈夫だと思った。
「怪しいけど・・・たしかに1週間で20万はうまいな・・・やるか!」
結局3人でバイトすると決め、参加手続きをするため、大学内にあるコンピュータールームへ行くことにした。