〜小説〜
ダイブ
第一章 はじまり
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ジリリリリリィ・・・
「んぁ・・・ねみぃ・・・」
不機嫌そうに起きた少年はあたりを見渡し目覚まし時計を止めた。
外からは鳥の泣き声と歩く人の足音が聞こえる。
6畳一間の部屋は蒸し暑く、ベッド、テレビ、パソコン、冷蔵庫しかなかったが、服やチラシ、参考書が床に散らばっていたためとても狭く感じた。
少年はエアコンとパソコンを起動した後、手早く服を脱ぎ捨てシャワーを浴びた。
10分後、シャワーから上がり腰にタオルを巻いて現れた少年は20歳前後、伸長は約180cm、細みな体つきで、茶色く染まった髪からは水が滴っていた。
少年は体についた水気を拭きながら、パソコンに向かった。
いつもどおりメールのチェックをしていったが一通のメールに気がつき動きを止めた。
「誰だこれ・・・?」
知らないアドレスからのメールだったため、普通なら本文を読まないで削除していたが、どういうわけか少年の本名がタイトルに含まれていた。
まだ半分寝ぼけており状況を飲み込めない様子だったが、しばらくして少年は本文を読みはじめた。
「日野琢也様へ
このたびは当サイトの会員登録手続き、誠に有難うございます。
当サイトでは入力されたデータをもとに最適なアルバイトを紹介させていただいております。
日野琢也様の志望にマッチした仕事は・・・」
本文を眺めた後、昨夜短期アルバイトを探すため登録したサイトを思い出した。
僕(日野 琢也 ヒノ タクヤ)は大学3年で機械工学を専攻している。
実家から大学が遠いため大学の近くにアパートを借りて一人暮らしをしている。
少し前まである飲み屋でアルバイトとして働いていたが、不況のせいかアルバイト先がつぶれてしまった。
おかげで今はあまり贅沢できる状況ではない。
明日から夏休みなので、友達とどこかに旅行に行こうという計画があったのだが、お金が無くすぐにお金が手に入る短期のアルバイトを探していた。
そんな時に見つけたサイトがあそこだった。
昨夜登録したサイトは聞いたことが無かったのだが、普通の長期アルバイトの求人をはじめ、あまり見かけないいわゆるレアな仕事の情報まで掲載されていた。
条件を登録しておけばその条件に見合ったアルバイトをメールで配信してくれるというものだった。
メールの本文にはいくつかのアルバイトについての情報が記載されていた。
すぐにでも金がほしかったため、1ヶ月以内で20万円以上の給与という条件で絞り込んだ。
さすがにこんな条件で登録したために、かなりきつい肉体労働を強いられそうなものや、危なそうなアルバイトばかりだった。
半分あきらめていたがメールの最後に乗っていたアルバイト情報に目を通した直後思わず声に出してしまった。
「マジで?そんなおいしい話あるのかよ」
僕はもう一度メールを読み返し考え込んだ。
「オンラインゲームのモニター
年齢20歳〜25歳
健康状態良好
1週間住み込み可
ゲームに興味がある方募集
生活費全額支給 給与20万円
参加希望の方は下記まで
http://www.*********.**.jp/」
僕はいつでも見ることが出来るようにメールを携帯に転送し、しばらくパソコンの画面を眺めていた。
しかし、時計を見るなりゆっくり考えている暇がないことに気がついた。
「やばいもうこんな時間か!」
今日の講義は出席日数ギリギリで、今日出席できなければ単位を落とすものだった。
僕は急いで服を着て、エアコンとパソコンの電源を落とし、すぐ家を出た。